ほらほら、こっちにおいで。 “オレ”はすぐそこまで来ているよ。 ほらほら、あともう少し。 怖がらないで、素直にこの手を取ればいい。 そうすれば、ホラ。 “オレ”は“俺”へと変わるんだ。 〜薔薇藤井桁 Web拍手連載小説〜 Recht und Freiheit 〜Prologue〜 そこはとても奇怪な場所だった。 目をあけている筈なのに、ペンキか何かで黒く塗りつぶされたように何も見えず、 声を発した筈なのに、きつい耳栓をしているように何も聞こえない。 だが、自分の体だけは、驚くほど鮮明に俺の頭の中に映し出されていた。 この黒さは、どうやらただの闇ではないらしい。 「……」 現実ではまずあり得ないだろうと頭の隅で片付けて、 これは自分の性質の悪い夢なのだろうと思った。 これまでに、このような非現実的な夢を見たことはない。 それが些か気になったが、時が経てば覚めると思い、深いため息を一つ吐いた。 「…け」 ため息を吐いた瞬間。 何も聞こえなかった筈の耳が、何かの音を拾った。 聞こえるようになったのかと、自分で言葉を発してみるが、 口が魚のようにパクパクと動くだけで、期待した結果は望めなかった。 俺は落胆し、きっとあの音は俺の気のせいだったのだと思いなおした。 そして、終わりも次なる展開も見えないこの奇妙な夢を終わらせる方法を考えた。 「す…」 しかしもう一度、音を感じた。 辺りを見回してみても、何もない、ただの黒一色。 何か嫌な感じがして、つう…と冷や汗が頬を伝った。 一体何が?と聞かれても答えようがない。 自分でもわからないほど、何も見えないそれに 俺は大きな恐怖を感じていた。 「さ…す…」 『何か』が、言葉を発している。 だがその正体はわからない。それが異常なまでに俺を煽り、 カタカタと身体が震えだしてしまった。 目を見開き、グルグルと辺りを見回してみても その『何か』が現れることはなかった。 『何だよ…!…夢のくせにっ何でこんなにリアルなんだ!!?』 本当に夢なのか疑いたくなるほど、自分に襲いくる恐怖心は現実のそれだ。 背中に汗が流れるのも、とてもリアルに感じる。 ぎゅっと目を閉じ、身体を抱きしめるように小さくなった瞬間。 『何か』が俺の耳元で囁く。 驚くほど鮮明に、そして、何処かで聞いたような声で。 「さすけ」 俺は知らなかったんだ。 未来も過去も、 自分がどれほど無知で、残酷だったかを。 屈託なく笑う俺の中で、涙さえ流せずに苦しんでいた存在を。 知らなかったんだ。 謝るのは俺の方なのに、 何でアンタはそんなに切なく謝るんだよ。 何で泣きそうな顔で笑うんだよ。 知らなかったんだ。 だから許してなんて言えないけど、 アンタのしたいようにすればいいさ。 それが、俺の運命なら、 喜んで受け入れてやるよ。 悪夢のような現実の始まり。 (頷いてしまったのが本心だったなら、俺は何故、こんなにも答えを出すのに苦しんだんだろう) Prologue end




☆★あとがき★☆
拍手連載「Recht und Freiheit」はじめました。 ドイツ語で「権利と自由」という意味です! ちなみにカタカナ読みは「レヒト ウント フライハイト」です。 毎月10日に更新していけたらなと思います!というかします! 楽しみにしててくださいね!! 幸佐のシリアス小説になりそうです。 突発的に考えたネタをそのまま文章にしてお送りします^^ 夢…にしようと思いますが、 他キャラが登場するのは1話目の終わりか2話目以降になっちゃいそう…;;; ちなみにこれはプロローグです!佐助の悪夢の具体的描写、という感じで! この様な夢を頻繁に見ていると解釈していただけると嬉しいですー(´∀`) 切なさ満載でやっていきたいと思いますのでどうか皆さま、 暖かく見守ってくださいませ〜!! では!お読みおただきありがとうございました!! 小説の感想、など気軽にお申し付けいただければ幸いです^^ これからもよろしくお願いいたしますー!!! 只今第三話公開中!→ web拍手