今まで本当にありがとう。 今まで本当にごめんな。 お前は俺にとって、 本当に大切な人だった。 子供の頃は、よく泣いた。 母親に愛されない悲しさと、 自分の弱さの悔しさと、 自由になれない苦しさで。 子供ながら、俺は自分は不幸だと感じていた。 でも、いくつの時だったか、あの時。 お前に始めて会ったあの時から。 俺の世界は大きく変わった。 『梵天丸様、お初にお目にかかります。片倉小十郎影綱と申します』 『これから、梵天丸様の身の回りの世話をさせていただきます』 あの時の小十郎はしっかりとした青年で、 頬に傷もなかった。 初めのうちは、『きっとコイツも俺を化け物扱いして去っていくんだ』と 心のうちで決めつけ、 必要以上に関わろうとしなかった。 しかし、ある日。 そう、今でも鮮明に覚えている。 俺は自分の身分を分かっていなかったんだ。 幼く、無知な俺が、 城下に向かったらどうなるかなんて。 冷静に考えれば、わかることなのに。 ただ、自由になりたくて。 悲しみから、逃げ出したくて。 こっそり、城から抜け出したんだ。 『自由に…なれるんだっ…!!』 嬉しくて、 無我夢中で走った。 幼いガキが、1人でどう生きていくつもりだったのか…。 でもその時は、 重い鎖が千切れ、空へ飛び立つ鳥になった気分で、 兎に角嬉しくて、顔が緩むのを直せなかった。 ガサッ! 『!?』 愚かだった。 幼いときの俺は。 小さい子供は、もちろん武器など持って居なくて、 ニヤニヤしながら近づいてくる山賊に、 ただ後ずさる事しか出来ない。 『なっ…なんだお前達は!!』 『“何だ”だぁ?オメーこそこんな餓鬼がこんなところでなーにやってんのかなー?』 『おっ俺は城下に行くんだ!そこをどけ!!』 『“どけ”と言われて“はいそーですか”とどく馬鹿がいるか!』 『お前いい着物着てんなー。もしかして、伊達の坊ちゃんだろ?』 『俺は家を出たんだ!!もう関係ない!!』 『そーはいくか!よしテメェら!この餓鬼とっ捕まえて、金頂戴すっぞ!!』 『なっ!!やめろ!!触るな!!!!』 腕を力一杯つかまれ、 痛みに顔をゆがませながら、必死に抵抗すると、 拳で顔面を殴られた。 頭がクラクラして、抵抗するのが止まった。 それをいい事に、グイグイと俺を引っ張り、 山賊どもは俺を連れて行こうとする。 もうダメかと、諦めかけたとき。 梵天丸様っ!!!!!! 馬に乗った小十郎が、 颯爽と駆けてきて、 山賊たちの前に立った。 『…梵天丸様に怪我負わせやがったな…』 『何だぁ?もしかしてこの餓鬼の世話係かぁ?はっ!コイツも弱そーな若造じゃねーか!』 『…お祈りを済ませろ…今すぐにだ!!』 『ばーか!この人数にお前1人で勝てるとでも思ってんのか!!』 『…なら試させてもらおう…倒されたい奴から前へ出ろ!前だ!!! 山賊たちが、嫌な笑い声を響かせながら小十郎に切りつけた。 しかし、小十郎はそれを鮮やかに交わし、 一太刀、又一太刀と山賊たちを倒していく。 二・三人同時に切りかかっても結果は同じで。 だんだん敵わないと感じ始めたのか、 山賊たちは逃げ出していった。 ぽつんと取り残された俺は、 ただ小十郎を見つめる事しか出来ない。 小十郎は俺の方を振り向くと、 ゆっくり近づいてきて片手を伸ばした。 俺はまた殴られると思い、肩をビクッと震わし、 目をギュッと閉じた。 しかし、さっきの様な鈍痛は無く、 頭もクラクラしない。 その代わりに、俺の頬を、 優しく、暖かいものが何度も擦っている。 おそるおそる目を開けると、 小十郎が泣きそうな、辛そうな顔をして目の前にいた。 頬を擦っていたのは、小十郎の伸ばされた手だった。 『心配しました…』 先ほど、山賊達に言い放っていた声とは違って、 かすれる様に、小さくそう言った。 『取り返しの付かないことになったら…どうするんですか…!!』 『こ…こじゅ…ろ…』 『貴方様に…もしもの事があったら…!!』 『………』 『私はっ…!!』 ふわっ…と、 暖かいものに包まれた。 抱きしめられているという事に気付くのに、 小十郎が耳元で、涙をこらえるような声で囁くまで わからなかった。 『本当にっ…ご無事で…よかった…!!』 その時、 始めて暗い暗闇の俺の心の中に、 光が見えた気がした。 そして幼い俺も、その言葉を聴いて、 塞止めがなくなったかのように、 大声で泣いた。 小十郎の暖かさに安心して、 殴られた痛みと、恐怖と、不安と、 何もかもが涙となってあふれ出し、 小十郎に必死にしがみつきながら泣いた。 小十郎も、優しく俺を抱きしめていた手を強め、 俺の頭をそっと撫で続けてくれた。 *** 「政宗様、いかがなされた?」 閉じていた目を開けると、 正座をした小十郎がこちらを見ていた。 あぁ、俺はいつの間にか眠っていたらしい。 ボー…とする頭の中で、 昔の事を夢見るのも久しぶりだなと思った。 心配そうに俺を見る小十郎に、 俺は『sorryただの転寝だ』と小さく笑った。 それに安心したのか、 小十郎は『そのような所で転寝いたしますと風邪をひかれますぞ』と 小言を言ったが、その表情は柔らかかった。 どうやら怒ってはないらしい。 「で、どうした?何か用があったんだろ?」 「いえ、ただ政宗様がお眠りになっていましたので、お声をかけただけです」 「そうか…。悪かったな。心配かけて」 昔から、こんなに俺の事を心配してくれるのは小十郎だけだった。 他のものは俺に感心すら持たず、 多分、人とも思われていなかった気がする。 俺の姿を見れば、避け、 そして影でこちらをチラチラ見ながら言うのだ。 『化け物』 この言葉に、幼い俺はどれだけ傷つけられただろう。 望んで片目を失ったわけじゃない。 望んで病にかかったわけでもない。 なのにどうして? どうして俺だけ傷つけられなきゃならない? どうして俺だけ愛されない? 小さな身体に、大きな悩み。 小十郎に出会うまで、俺は不安で不安で、 仕方が無かったんだ。 「政宗様?」 お前に、 何度助けられただろう。 「やはり、具合が悪いのですか?」 心配される喜びを、 怒られる嬉しさを。 たくさんたくさん教えてくれた。 「小十郎…」 「はっ」 いつも言われる小言も、 表じゃ嫌がっているが、 本当は嬉しくて。 俺の事を思って言ってくれているんだと思ったら、 嬉しくてしょうがなくて。 「どこにも、行くな」 お前が居なくなってしまったら、 俺は何も出来ない。 何も感じられない。 俺の世界には、お前が必要不可欠で。 お前が居ない俺の世界は、 色の無い白黒の世界。 だから、行くな。 どこにも。 ずっと、傍にいてくれ。 じゃないと、俺は。 俺は壊れてしまう。 「はい、ずっと、お傍に」 *** 空が泣いた。 誰かの命が散ったのか。 先ほど送り出した小十郎はまだ帰ってこない。 心配だったが、 自分は驚くほど冷静だった。 「……?」 頬を伝う水滴は、 ずっと雨だと思っていたが、 一筋、二筋と、雨の冷たさとは違い、 少し暖かいものが流れていた。 それが自分の涙だと気付いたときに、 心のどこかでは覚悟していた事が起こったのだと思った。 「そうか…小十郎。お前は逝ったか…」 あんなに、 『俺の世界には、小十郎が必要不可欠』と思っていたのに。 いざ、失っても、取り乱す事も無く、 ただ静かに、現実を静かに受け入れ、 静かに、涙を流した。 「政宗殿!!!」 後ろから、 大きな声で俺の名を呼ぶ。 振り返ると、俺の涙とは違い、 何度も目をこすったのか、赤く腫れた目。 荒い息。 倒すべき人物がそこに立っていた。 「真田、幸村」 「決着を…つけに参りました…」 あぁ、そうか。 小十郎、お前はこの目に魅せられたのか。 真っ直ぐな、赤く美しい目に、 お前の心は奪われていたのか。 「小十郎は…」 その名を口にした瞬間。 幸村の身体がビクッと震えた。 そして酷く傷ついた、辛そうな顔をして、 こちらに顔を向けた。 「そうか…負けたか。お前に」 「政宗殿っ!某は…」 「Shut up!お前の言い分なんざ聞きたくねぇ。俺は事実が聞きてぇだけだ」 「…っ!」 「小十郎は、逝ったんだろ…?」 その問いに、幸村は小さく頷いた。 あぁ、小十郎。 俺は、本当は気付いていたんだ。 お前の心が紅蓮の華に奪われていた事ぐらい。 戦場(いくさば)でアイツの事を、お前が目で追ってた事ぐらい。 その目が、愛しそうな優しい目だった事ぐらい。 でも、離したくなかった。 誰を想ってたっていい。 心は俺のものじゃなくても、 お前が俺の隣に居てくれるだけでよかった。 俺は俺の為に、 お前を縛り付けたんだ。 「…さぁ、始めるぜ」 苦しかったろ? 辛かったろ? その苦しみに、俺は知らない振りをして 傍に居る事を強制した。 ごめん。 ごめんな、小十郎。 お前を苦しめたかった訳じゃねぇんだ。 ただ、寂しくて。 お前だけだったから。 心配してくれたのも、 怒ってくれたのも、 小言を言ってくれたのも。 全部全部、お前だけだったから。 失いたくなかった。 どうしても、お前だけは失いたくなかったんだ。 「派手なPartyの始まりだ!」 自信が持てたのも、 強くなれたのも、 民を想う心を持てたのも、 お前のおかげなんだ。 「覚悟しろよ!!真田幸村ぁ!!!!!」 小十郎。 今まで本当にありがとう。 今まで、本当にごめんな。 苦しめてしまった事を許して欲しい。 ありがとう。 ごめんな。 ずっと、大好きだった。 *** 20XX年、東京。 派手に制服を着崩し、 右目に眼帯を付けた少年が校門をくぐった。 「Ha―n…。此処が今日から通う学校か…」 そう一言零し、 ズカズカと早足で少年は職員室に向かった。 生徒用玄関に到着し、 靴を脱ぐと、どのロッカーに入れたらいいかわからないのか、 キョロキョロとあたりを見回し、 そして取り合えず一番下の端のところに入れてみる。 そこらへんから客用スリッパを引っ張り出し、 一度親と来た事を思い出しながら歩いていった。 「スンマセーン。今日転入してきた伊達っスけど…」 ガラララと何の躊躇もなしにドアを開け、 気の抜けた声でそう言った。 すると、職員のほぼ全員が少年の方を向いた。 そのいくつもの視線に、少し少年は戸惑ったが、 すぐに教頭らしき人物が現れた。 「あぁ…伊達政宗くんだね?一度親御さんと来た時に言ったが私は教頭の松永久秀だ」 「はぁ、ども」 「その時にキミの担任も紹介しておいた方が良かったのだが…生憎出張でね。済まない」 「いえ、全然」 「では呼んでこよう。少し待っててくれるかね?」 「はい」 よくしゃべる教頭だと思っていると、 その教頭が後ろに彼より少し背の高い男を連れて政宗の前に来た。 「待たせたね、伊達くん。こちらがキミの担任になる…」 「片倉小十郎、担当は歴史だ。よろしく」 そう頭を下げる片倉に、政宗は見覚えがあった。 遠い昔、まるで映画のワンシーンのように、 頭の中に映像が浮かぶ。 『小十郎!』 『政宗様!!』 そうだ。俺はコイツを知っている。 そう政宗が思ったと同時に、 片倉も目を丸くしながら彼を見た。 そして、同時に言う。 「「…会いたかった…(お会いしたかった)」」 時代が変わっても。 お前と出会うことは運命なのだろうか? でも、次は失敗しない。 お前を苦しめるような事はしねぇよ。 会いたかった。 ずっと、待ってた。 この幸せな時が来るのを。

「あの時とは違う、平和な世で、幸せな時をキミと」



☆★あとがき★☆
はい!展開が速すぎますね!! 過去話から現在になって一気に戦場…そして未来…。 うわぉ☆!見たいなね!! ちなみに、『戦場に咲く、一輪の赤い華』の続き&政宗視点だと理解していただければ…。 と思っております! つまり 政宗→小十郎×幸村 って感じですかね! 蒼紅の戦いの決着はご想像にお任せいたします^^ 未来は、学バサな感じで! 小十郎が担任で政宗が転入してきてバッタリ…みたいな感じです! 「…会いたかった…(お会いしたかった)」 ↑の口調は昔の記憶から思わずポロッとでちゃった感じです(ほぼ小十郎のほうがポロッと) そのあとの二人はどうなったかもご想像にお任せします^^ まぁ、ただ単にめんどくさk(強制終了 政「Hey!管理人!!お前この展開どう言うことだ!!」 那「なっ!政宗ぶー!!何だねチミは!!」 政「何だ『政宗ぶー』って!!叩っ切るぞ!!」 那「小さい事にうるさい男はモテないぞ☆」 政「Ha!俺はもうモテモテだから関係ねぇな!!」 那「うっわ、うっぜ!」 政「In any case!!この展開だ!!」 那「何だね?私の頭に思い浮かぶままに書いたこの小説に文句があるのかね?」 政「大有りだ!!馬鹿野郎!!何で俺の片思いなんだよ!」 那「…成り行き?」 政「成り行き!?何だそれ!それとなぁ!この文章だと俺がすげぇ小せぇ男みてぇじゃねーか!」 那「『みてぇ』じゃなくて『そう』なの!」 政「Han!?俺そういうcharacterなのか!?」 那「うん」 政「……そうだったのか…」 ヘタレ政宗は大好きですvv これから政宗はどんどんヘタレさせるのでお楽しみをvv カッコいい政宗ファンの皆様はちょっとキッツイかもしれません;; では!ここまで読んでくださってありがとうございます! これからも頑張りますので! どうぞよろしくお願いいたしますー!! 管理人に応援メッセージ → web拍手