触れたい。 抱きしめたい。 今なら手が届くかもしれない。 振り向くキミは 太陽に照らされて 笑顔った
今日の城はいつもよりも騒がしかった。 何故かと言うと、 あの武田の若き虎、真田幸村と その忍、猿飛佐助が訪問してきたからだ。 一体何の用かと思いきや、これまた至って普通の用事で。 少々気抜けしてしまったのは見逃してほしい。 そして今、城には静けさが戻り、 一段落済んだところで、 俺は自慢の野菜たちの収穫に向かう。 「むっ!片倉殿!!そのような大きな籠を持って何処へ行かれるのだ?」 「あぁ、今から野菜の収穫だ」 「野菜…?片倉殿が作っておられるのか?」 「まぁな。なんだったらついて来るか?」 「一緒に行ってもよいので御座るか!?ならば連れて行ってくだされ!!」 「おぅ、こっちだ」 途中で会った真田に持っていた籠を渡す。 それを嬉しそうに受け取る真田を、 可愛いと思ってしまった自分は変態なのだろうか。 仮にも奴は男だ。 女だったらまだしも、男を可愛いと思ってしまうのはどうかしてる。 「片倉殿!今はどんな野菜が採れるので御座るか?」 「いっ…今か?今だったらトマトときゅうり…あとオクラだな」 「ほー!そんなにたくさんで御座るか!!是非某も採ってみたいものだ!」 「あぁ、じゃぁ採らせてやる」 「本当で御座るか!?たくさん採っても構わぬか!?」 「あっ…あぁ。別に構わねぇが…」 「お館様にお土産をお送りせねばならぬのでな!!片倉殿の野菜なら、きっとお館様も喜んでくれようぞ!!」 不意に真田の口から出た『お館様』に、 ピクリと反応し、眉間に皺が寄ってしまったのは気のせいだと信じたい。 このイライラも、 普段の主のいい加減さのせいだと思いたい。 決して、嫉妬などしているわけはない。 そう、そんなはずないのだ。 「むっ!!もしやあれが畑で御座るな!!」 「おぉ、そうだ」 「うぉぉぉぉぉー!!某が一番掛けですぞ!!」 「おい!!行き成り走り出すな!!」 籠を背負いながら走り出す真田。 一生懸命走っている姿は可愛いが(いや、俺は決して変態ではない) もう少し先には見えにくいが窪みがある。 それを知らない真田は、きっと豪快にこけるだろう。 俺だってあの窪みには何度もやられたのだ。 「真田!!そこに窪みが…」 ドシャッ!! ふぶっ!!!」 「…遅かったか」 俺の言葉が終わる前に 真田は窪みに到着してしまい、 そして予想通りに顔から豪快に(見ているこっちがスッキリしてしまうほどに)こけたのだ。 そのこけた体制のまま動かない真田。 そうとう痛かったのか少し心配になる。 「おい、大丈夫か?オラ、立たせてやっから手ぇ出せ」 「うぅ…かたじけない。片倉殿…」 シュンとしおれたまま立たせられる真田が可愛くて仕方がなくて(いや、俺は絶対に変態ではない!) 思わず手を真田の頭に乗せ、クシャクシャとなでてしまった。 撫でられている真田の顔は、 まさしく『?』と言っている様で、 その顔がまた可愛くて、頬が緩んでしまった。 「…頭に土が付いてたんでな。掃った」 「おぉ!そうであったか!!いや、かたじけない!」 理由がわかって嬉しいのか、 真田はニコッと笑って礼をした。 …本当の理由なんて言えるはずねぇだろ。 気が付いたら頭撫でてましたなんて。 これじゃ、本当に俺は変態になってしまったのかもしれない。 「片倉殿―!とまとはどのようにして採るのだ?」 トマト畑の前で手をブンブンと振る真田。 俺はそこに駆け寄り、 トマトの正しい収穫の仕方を教えた。 真田はその話を「ふんふん」と時折相槌を打ちながら聞き、 「わかったで御座る!」と叫んだと思いきや、 籠を背負いなおして走り出してしまった。 「やれやれ…だな」 喜怒哀楽の激しい奴だ。 だが、その目まぐるしく変わる表情は、 見ていて全然飽きない。 むしろ、こう返したらどう反応するのだろうか、とか もっと見たことのない顔をさせてみたいとも思っている。 嬉しそうに笑った顔。 悲しそうにしおれた顔。 戦で見せる、たくましい顔。 そのひとつひとつの顔が、 俺をこんなにも惑わせてしまうのだ。 「まったく、困った野郎だ…」 いつでも一生懸命で、 何事にも真っ直ぐで。 そんな奴に惹かれてしまうのは、 きっと、自分も真っ直ぐでありたいからなのかもしれない。 主に忠誠を誓ったあのときから、 主の為に真っ直ぐありたいと願ったあのときから。 真っ直ぐでありたいのに、俺は曲がってしまった。 汚いこともした。 それが主の為だと言い訳をして。 だが、曲げてしまったことに変わりはなく、 その事実は俺を苦しめた。 だからなのだろうか。 一度も曲がったことなどないであろう真田を 羨ましく思い、 そして愛しく想ってしまうのは。 「片倉殿―!!」 俺の名を呼ぶお前を、 力の限り抱きしめたいという衝動に駆られてしまう。 最早、男だろうがなんだろうが関係なくて。 声を聞くたび、姿を見るたび、 愛しさが募っていくのだ。 あぁ、俺はとうとう自覚してしまった。 真田が好きだということに。 「見てくだされ!片倉殿!!こんなにたくさん採れましたぞ!!」 「あっ…あぁ。そうだな、全部持っていって構わねぇぞ」 「本当で御座るか!?とまとの赤は武田の赤!きっとお館様もお喜びになられる!!」 …。 自覚してしまったからには、 自分に正直になるべきか…。 きっと、この感情は『嫉妬』。 俺の前で嬉しそうに他の男の名を呼ぶな。 それが例えお前の敬愛する君主であっても。 「?どうしたので御座るか?片倉殿」 そんな顔で俺を見るな。 この動揺を気付かれてしまう。 俺より幾分か身長の低いお前は、 結果、俺を見上げる形になる。 それは俺としては複雑で…。 上目使いで話すお前の姿は、 自覚してしまった俺にはキツすぎるのだ。 「あー…何でもねぇ…」 「左様か?なら、いいのだが…」 心配そうに首をかしげ、 真田は「この籠をお借りしてもよろしいか?」と聞き、 無言で頷くとまた野菜を収穫しに歩きだそうとした。 今なら、 手が届くかもしれない。 今なら、 触れられるかもしれない。 今なら、 抱きしめられるかもしれない。 「真田!!」 歩く背中を追いかけ、 手をこちらに引っ張った。 案の定、真田はクルリとこちらを向き、 少し驚いた顔をした。 当たり前だ。 こんな風にされるなど、 夢にも思っていないだろうからな。 「どっ…どうしたので御座るか?…片倉殿…」 困惑した顔、声。 こんな表情は見たことがない。 またひとつ、真田に惹かれてしまった。 そのまま、グイッと引けば、 スッポリと俺の胸に収まってしまった。 背中の籠が邪魔だが、 今はそれどころではない。 「かっ…片倉殿っ!!?」 あせっている声。 きっと、真田の顔は真っ赤になっているに違いない。 その姿を想像すると可愛くて、 そうさせているのは俺だと優越感がこみ上げる。 「悪い。少し、このままでいさせてくれ…」 思ったより細い体。 でも暖かくて、 気持ちいい。 ずっと、抱きしめていたいと思った。 真田は、 そのまま何も言わず俺に抱きしめられていた。 そして、静かに体を離すと、 顔を真っ赤にした真田がそこにいた。 「すっ…済まぬ…」 「何謝ってんだ。そりゃ俺の台詞だろうが」 「しっ、しかし…」 「悪かったな。真田。驚いただろ?」 顔を真っ赤にして、服の袖を握り締めて、 こんな姿を見て、可愛いと思わずにいられる奴がいるのだろうか? また抱きしめたいという衝動を抑えつつ、 かつ冷静に勤められるよう努力した。 「かっ…片倉殿!!」 「…?どうした?」 謝罪をして、自分のしでかした自体を終わらせようとし、 クルリと方向をかえて歩き出そうとすると、 真田が俺の服をつかみ、 それを静止した。 「そっ…その…何というか…」 「…?」 「もう一度…してほしいで御座る…」 「は?」 「うああぁぁ!!やはりこんな事を思ってしまう某は破廉恥なのだあぁ――!!」 「おっ、おい、何一人で興奮してんだ!?」 いきなり暴れ始めた真田の肩を押さえ、 落ち着かせると、 真田は下を向き、しばらくそのまま動かなかった。 「…?」 「つまり…某がいいたいのは…」 やっと口を開いたかと思えば また黙り込み、の繰り返し。 痺れを切らした俺は、 真田と目線が合うように少し屈み、 真田の顔を覗き込んだ。 「おい、何が言いてぇんだ?」 「う…それは…」 「言わなきゃわかんねぇぞ?言葉はそのためにあんだ」 そう言うと、真田は決心したのか、 勢いよく顔を上げ、 一度深く深呼吸をして、言った。 「もう一度…!!…抱きしめてほしいで御座るっ!!!」 ……………は? 俺の思考が停止してしまったのは言うまでもない。 今、こいつは何て言いやがった? 「かっ…片倉殿に…抱きしめられているとき…こっ…心地よくて…」 おい、止めろ。 それ以上言うな。 「このまま…時が止まればいいのにと…」 「止めろ」 「片倉殿…?」 「…てめーは…どれだけ俺の頭ん中をお前でいっぱいにしたら気がすむんだ…」 止められなくなってしまう。 真田のすべてが、 欲しくなってしまう。 グイッとまた真田の腕を引き、 また力強く抱きしめた。 その細い体が折れてしまうのではないかと思うほど、 力の限り、強く、強く。 そしてまた離すと、 さっきよりも顔が赤い真田に、 優しく接吻した。 もう止めることなどできず、 愛しさが溢れ、 感情のままに抱きしめた。 不覚にも嬉しかったのは、 抱きしめているときに、俺の背に回った真田の腕。 受けいれられたと、 自分が思っている以上に嬉しくて、 思わず笑ってしまった。 そして、体をゆっくりと離すと、 真っ赤になっていることに変わりはないが、 真田は俺に優しく微笑み、 その笑顔に見とれてしまった。 笑顔を向けられたことが嬉しくて、 そしてその笑顔は、 太陽の光を受けて、光った。 綺麗だった。 そしてまた、真田が愛しくなった。 綺麗笑顔お前笑顔は、最大

「その宝を、一生守りたいと思った」



☆★あとがき★☆
友人に頼まれて書いた小十幸です(笑) 始めて書きましたー^^ 幸村の台詞がいまいちよくわかんなくて、 とりあえず『ござる』つければいいかなって感じで書いたので、 「ちょっ…コイツ、ござるござる言い過ぎじゃね?」 と思われた方すみません!!!! 言い過ぎなのは気のせいじゃないです!! 言いすぎです!! まぁ、これからゆっくりと、口調については研究していくんで、 それまで爪先で立っている管理人を笑ってやってください! では!! 此処まで読んでくださってありがとうございます!! これからも頑張っていくので、 また遊びに来てくださいねvv 管理人に応援メッセージ → web拍手