10年後の私へ。 今、貴女は幸せでしょうか? それとも、悲しくて、毎日泣いているでしょうか? でも、気付いていますか? 貴女の周りには、 きっと、昔と変わらぬものがあり、 その変わらぬものに、 守られているという事に。 引越しをする事になったから、 荷物をまとめ、部屋を掃除していると、 一通の手紙を見つけた。 とても古い手紙で、紙の色が黄色く変色している。 宛名を見ると、私宛。 まだ開封しておらず、開けてもいいか迷ったが、 私宛なので大丈夫だろうと思い、 封を切った。 「あ…。懐かしい…」 それは、昔、私が書いた手紙だった。 未来の私へ宛てた、 幼い私の希望が詰まった手紙。 シャープペンシルを握り締め、 まだ見ぬ未来に想いを馳せ、 わくわくしながら書いたあの手紙。 大人になった私はどんな風に生きているのだろうか、とか。 恋人は?もしかしたら結婚して、子供もいるかも!とか。 幼い私の考えは、そんな事ばかりで、 『あぁ、本当に純粋な女の子だったんだなぁ』と笑った。 「ふふ…『私は今、テスト期間の真っ最中です』だって」 ちゃんと勉強しなさい。と、思ったが、 自分が大の勉強嫌いなのを知っているから、言葉には出さない。 楽しかった学生時代が、 昨日の事のように思い出す。 「何やってんだ?」 「あ、小十郎」 手紙を読みふけっていると、 後ろから私の引越しの手伝いをしてくれている小十郎が来た。 小十郎は私の幼馴染で、小中高同じ学校。 もちろん、この手紙の中にも小十郎のことが少なからず書いてあった。 それを思い出してまた笑う。 「何だ。ニヤニヤして」 「にっ…!?ニヤニヤなんかしてないよ!!」 「わかった、わかった。んで、自分の引越し準備サボって何やってんだ」 「んー?当ててみて」 「はぁ?知るか。んなもん」 「小十郎冷たーい。そんなんじゃ会社で嫌われるぞー!!」 「はっ!嫌われたって、政宗様と輝宗様がいらっしゃれば俺はクビになんねぇよ」 「うっわー小十郎性格悪!!まーくんに言いつけるぞ!!」 「お前…仮にも自分の会社の御曹司にまーくんはねぇだろ」 「まーくんはまーくんだもん!私だってまーくんとはこんなちっちゃい時から面倒見てたんだから!」 「俺は政宗様がお生まれした時からだ」 「ちっくしょーー!!」 「…お前一応女なんだから、もうちょっと口直せ」 「『一応』ってなんだこの野郎――!!」 「…はぁ」 「ため息つくなー!!」 昔から、小十郎はまーくん一筋で、 いつも彼の傍から離れなかった。 それをまーくんも望んでいたから、全然問題なかったけど、 私には大問題。 小十郎は私とあまり遊んでくれなくなった。 最初は、私から小十郎を取ったまーくんが大嫌いだった。 でもある日、小十郎がまーくんを連れて私の家に訪れてきた時があった。 『。このお方が政宗様だ』 『……ふぅん』 『………』 『こら、挨拶しろ』 『…こんにちは、政宗様』 『………』 『政宗様、ご挨拶なさってください。挨拶は人間の基本ですぞ』 『………こんちは』 こんな感じで、ぎこちない雰囲気満点の対面だった。 最初は私も『政宗様』と小十郎の真似をして呼んでいたのだが、 堅苦しいのが性に合わない私は、 すぐに『まーくん』と呼び名を変えた。もちろん、まーくんには承諾を得て。 まーくんと遊んでいるうち、 だんだんと可愛く思えてきて、『大嫌い』から『可愛い弟』に印象が変わった。 大人になった今でも、まーくんとは買い物に出かけたりと仲良しだ。 「そういえば、政宗様が又お前と遊びたいとおっしゃってたぞ」 「ホントに?私もそう思ってたんだ♪」 「それと、引っ越し祝いもしたいとも」 「えー!それは悪いよー!まーくんお金の使い方凄いから、とんでもないものになっちゃいそうだし!!」 「……まぁ、そう言ってくれるな。政宗様は政宗様なりにお前にお祝いしてやりたいんだ」 「う…小十郎がそう言うなら…」 昔から、小十郎には甘い私。 前から約束していたものが、 まーくんのせいでドタキャンなんて当たり前だったし、 それを謝る小十郎の姿を見れば、許してやるしかない。 又今度、又今度が続き、結局行けなくなってしまうこともしばしばで。 それは昔も今も代わりは無いが、 今日、こうやって引越しの手伝いをしてくれているのなんか、奇跡に近い。 もしかしたら、今にも小十郎の携帯が鳴って、 申し訳なさそうに『悪い、会社に戻らなくちゃなんなくなった』って言い出しそうで。 そうならないことを、私は心から願うばかりだ。 「あー、もう12時か…」 「あ、お昼?買ってこようか?」 「いや、俺が行く。お前何食べる?」 「んー…なんでもいいや。お任せします」 「わかった。じゃぁ、ちょっと行ってくる」 「はいはーい。いってらっしゃい」 そういってしばらくすると、バタンとドアが閉まる音がした。 小十郎が行ってしまった後、 手に握られていた手紙に目線を落とす。 『今、誰が好きですか?もしかして、まだ小十郎が好きだったりして…』 『もし、まだ小十郎のことが好きなら…』 昔から、小十郎を好きな私。 それは今も変わってなど居なくて。 日を追うごとに募り、苦しくなる。 でも私は、一番じゃないから。 小十郎にとって、私は良くて二番目。 一番はもちろんまーくん。 ずっと、ライバルは弟のように可愛がっている彼。 絶対に勝てない。 それを痛いほどわかっているし、 私自身が彼を友人として好きだから…、辛い。 パタ…。 水滴が手紙の上へ落ちた。 その水を、長年の渇きを潤す様に紙が吸い込んでいく。 しかし、水滴は次から次へと紙へ落ち、 いくつも水跡を作った。 「っ…う…」 止まらない。止められない。 苦しい。苦しいよ。 昔も、小十郎を想いすぎて泣いた。 1人ベッドに寝転がり、 枕に顔を埋めて、声を殺して泣いた。 その姿が、今、泣いている自分とかさなる。 でも、今は、 今はこの涙を止めないと。 小十郎が帰ってきちゃう。 止まれ。止まれ涙。 ガチャ 「。冷やし中華にしたが大丈夫か?」 「っ…!…うっ…うんっ…大丈夫だよっ!」 優しい声に上ずった返事を返して、 私は慌てて彼に背を向けて、 泣いていたことを隠す。 正面から向き合ってしまったら、 絶対にバレる。 まだ眼は充血してるはずだし、 ちょっと鼻声なのは仕方ない。 ただただバレないことを願うしかない。 「…?」 「暑かったでしょー?ご苦労様」 「おい…」 「先食べてていいよ。もうちょっと私、此処片付けてからにするからっ!」 「!!」 グィッ…と強い力で振り向かせられた。 慌てて下を向く。 顔を見られたら、まずい。 「顔、上げろ」 「やだ」 「…上げろ」 「やだ」 「無理やり上げるぞ?」 「絶対上げない!」 「…はぁ」 「………」 早く諦めてご飯を食べろ! と心の中で叫ぶ。 言葉に出せないのは、 今のこの雰囲気がそうさせるから。 この台詞はさすがにKYだ。 ぐいっ! 「うっ!?」 「…やっぱ泣いてんじゃねぇかよ」 痺れを切らしたのか、小十郎が突然私の顔に両手を沿え、 結構強引に私の顔を上げた。 その時驚いて変な声が出てしまったのは気のせいであって欲しい。 そして、少し切なそうな顔をしている小十郎と眼が合った。 「泣いてない…」 「嘘付け。眼、赤い」 「気のせいだよ。きっと疲れが出てるだけ」 「それに、涙の跡、頬に付いてるぞ」 「っ…!…気のせいだって」 「強がるな。お前の悪い癖だぞ」 「強がってない…強がってなんかっ…」 そう言った後、また涙が出てきてしまった。 その涙は、両頬にある小十郎の手を濡らし、 そして私の『強がり』という砦を壊し、 感情が次から次へと溢れ出して来た。 涙はもう止まらない。 「ホラ、強がってたじゃねぇか」 「…うぅ…」 「どうした?お前が泣くなんて、珍しい」 「っ…こじゅ…ろっ…」 「俺は此処にいる。安心しろ」 両頬にあった手は、 いつの間にか背中に回され、 私は小十郎に抱きしめられるという状況になっていた。 そして顔を小十郎の胸にうずめ、 彼の服を強く握った。 「小十郎…」 「何だ?」 「…小十郎の…一番って…っ…誰?」 わかってる。 まーくんだよね? わかってるけど、今、私は弱ってるの。 ほんの少し、期待してるの。 もしかしたら、私の事を言ってくれるんじゃないかって。 「俺の一番は、政宗様だ」 ホラね。 うん、わかってた。 わかってたけど、 やっぱり辛い。 「でも」 「愛した女は、お前だけだ。」 え? 顔を上げると、優しく笑う小十郎が居た。 そして優しかった腕は力を持ち、 私をギュウと抱きしめた。 「」 「うっ…っ…こじゅ…」 「愛してる」 耳元で、優しい声で、 何度も、何度も『愛してる』と囁く。 その声は、私にとっては優しすぎて、 返事は嗚咽に変わり、うまくしゃべれない。 言葉の変わりに、小十郎の背中に私も腕を回し、 小十郎に負けないくらい力いっぱい抱きついた。 「…なぁ。」 「ヒック…な…にっ…?」 「結婚しちまうか」 「はっ!!!?…っゲホゲホッ!!何言って…」 「引越し先。俺が手配してただろ?」 「ぇ…うん…まだ、教えてもらって、ないけど…」 「実は引越し先、俺の部屋だ」 「はいぃぃ!!!!!????何で!?だって小十郎の部屋…二人住むのはキツイし…それに…」 「俺も実は新しいマンションに引っ越した。二人住むのは十分な広さだ」 「でっ…でも!だって…」 急な展開に頭がついていかない。 でも、小十郎の言い分だともう同棲は決まってる方向で…。 あっ…アレ? もう分けわかんなくなってきた…。 「今日、言うつもりだったんだ」 「…へ…?何を…?」 「結婚しようって…な」 はにかむ様に笑い、 そして小十郎は優しく私の左手の薬指に、 キラキラと輝く指輪をはめた。 そのデザインは、蒼いサファイアを散りばめ、 小さなダイヤをいくつも中心にのせたとても可愛らしいもので。 驚いた声を隠し切れず、『これ…』とだけ言うと、 小十郎は『政宗様に選ぶのを手伝っていただいた。気に入ったか?』とまた笑った。 「うんっ…!気に入った…嬉しいっ!!」 「それは良かった。で、俺はまだ、返事を聞いてねぇんだが…」 「え?」 「俺はを愛してる。ずっと、傍で支えてもらいたい。」 「」 「俺と、結婚してくれ」 真剣な目。 小十郎の気持ちが、嘘偽り無く、 真っ直ぐなのがひしひしと伝わってきた。 嬉しい。 嬉しい。 今は、まーくんを見ている目じゃない。 私を、私だけを見てくれている。 愛されている。 ずっと傍に居られる。 嬉しい。 嬉しい!! 私の目に、また涙が溜まった。 それを見られたくなくて、 私は両腕を伸ばし、 小十郎の首に回して、力いっぱい抱きついた。 「私も…愛してるっ…ずっと、傍にいたいっ…!!小十郎!!」 小十郎は、片腕を私の身体に回し、 優しく抱き寄せてくれた。 もう片方の手は私の頭に回り、 あやす様に撫でる。 「泣くな、。お前に泣かれると、どうしたらいいかわからなくなっちまう」 「だって…っ…うー!」 「…俺は、ずっとお前を泣かせてばっかりだな…」 「…?」 「餓鬼の頃から、いつも泣かせたな」 「違っ!…アレは私が勝手に…」 「でも俺が原因なのは確かだろう?それは俺が泣かせたのと同じだ」 「そんなこと…っ…」 「泣かせたくなかった…でも、正直、嬉しかったんだ」 「え…?」 「『俺の為に、俺の事を想って、泣いてる』って勝手に都合のいい解釈をして、喜んでた」 「小十郎…」 「悪かった…。お前の気持ちを考えてやれてなかったな」 「………」 「俺、余裕なかったんだ。格好悪ぃけどな…。餓鬼だったんだ。昔も、今も」   きっと、小十郎も苦しかったんだ。辛かったんだ。 私とまーくんに板挟みにされて、どちらを取るか悩んで。 そうだよね。私だけ辛かったわけじゃない。 貴方も悩んで、考えて苦しんで。 そうやって今まで生きて来たんだよね? いつも損な役買って出てさ、自分の事そっちのけで。 料理とか野菜作り上手いくせに、変な所で不器用で。 写真も全然笑わないし、いつも眉間に皺寄らせて。 苦労とか、疲れとか、全然見せないでさ…。 そうやって、生きて来たんだよね? 「私が…全部受け止めるよ…?」 貴方の全部。 格好悪い所だって、いい所だって、 嫌な事も、楽しかった事も、 苦労も疲れも、 何もかも、全部。 「どんな小十郎でもいいの…だって、小十郎は、小十郎でしょ?」 「…」 「だから、ちゃんと分けてよね。貴方の肩に乗った重荷」 「………」 「だって、夫婦になるんでしょう?私達」 「協力し合わないでどうするの?」 いつの間にか、私の涙は止まっていて。 私の頭を撫でる小十郎の手も止まっていた。 私はそっと、彼の肩口から身体を起こし、 真っ直ぐと彼へ視線を送る。 彼は困った様に笑って、ポンとまた私の頭へ手を置いた。 「そうだな。折角一緒になるんだ。これからしっかり励めよ?」 その言葉が嬉しくて、私はもう一度、彼の胸へ飛び込んだ。 彼の温かい体温に包まれて、 私は世界一、幸せな女になった。

「受け止めます。だって貴方は貴方でしょう?突き放すなんて事、絶対にないから」



★☆あとがき☆★

小十郎夢―!! 何かめっちゃ長くなってしまった…。 まぁいいか☆← これはミクちゃんの『letter song』を聴きながら書きました! めっちゃ詩パクっとるやんけ…;;;; 何かこの歌は小十郎向けだなと勝手な解釈← 勢いって怖いね(笑) 此処まで読んでくださってありがとうございます^^ これからも頑張りますのでよろしくお願いしますー!!


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