どうしよう。 どうしよう。 好きなんだ。 ただ、大好きなんだ。 どうしよう。 止められない。 窓際スタートライン いつも、校庭で走るキミを見ていた。 汗だくになりながらも、必死にボールを追いかける姿を見ていた。 その顔は、本当に生き生きしていて、 輝いていて、 あぁ、この人は私には無いものを持っているんだなぁと感じた。 「うらやましいなー…」 私はいくら好きな事をしていたとしても、 あんなに輝けることはないだろう。 笑顔を振りまくことなんて出来ない。 いいなぁ。 私も、彼みたいに輝いてみたい。 「さーん」 「はい?」 「ごめん、さん。日本史のノート、見せてもらってもいい?」 「あぁ、どうぞ」 「ありがとう!本当にさんにはお世話になりっぱなしでごめんね」 「いいえ。私にはこれくらいしか出来ないから」 …私には、これくらいしか出来ないから。 私は勉強して、ノートをまとめて、 クラスの人たちに見せる。 こんなくだらない事しか出来なくて、 なんだか情けなくなって、悲しくなる。 でも、そんな事を思っていても、 何も行動に起こさない自分の弱虫加減には 本当にため息が出る。 怖いんだ。自分を変えてしまうのが。 一番自分を変えたいと思っていても、 変わった私が今以上に、 他の人に受け入れられなかったらどうしよう。 避けられてしまったら? そんな不安が心を侵食し、 希望なんて見えなくて、 私は今日も、立ち止まる。 「そっちいったよ――!!」 「幸村―――!!てめー決めねーと後で奢らせるからな!」 またふと外へ視線を落とすと、 彼らのサッカーの試合は終盤に差し掛かっていて、 最後の1ゴールで勝敗が決まるようだ。 今の会話からすると、『ゆきむら』と言う人に運命が掛かっているらしい。 窓辺にひじを着き、その様子を見ていると、 キミがボールを蹴って走っている。 「いけー!!真田ぁ!!」 あぁ、そっか。 キミは、『さなだゆきむら』って名前なんだね。 「み・な・ぎ・るぅぁぁぁぁ――――!!!」 そうキミが叫んだ後、 ボールは力強く蹴られ、 ゴールポストを飛び越して、 草むらへと姿を消した。 あらら。 力が入りすぎちゃった。 「何やってんだよ幸村!!」 「そうだぜ真田ぁ!!最後の最後でアレはねーだろ!」 「旦那ぁ…旦那はやれば出来る子なのに…」 口々と文句を言うキミの友人たちはみんなユニークで、 でも、文句の中にちっとも悪気は感じられなくて、 とてもいい友人たちなんだなと思った。 「すっ…済まぬ…」 「フン…では、昼代は真田持ちと言うことでよいな?」 「いっ…致し方ない…」 「よっしゃー!!タダ飯だー!!」 わいわいと教室へ帰っていく人たち。 楽しそうだなーと自然と頬が緩んで笑っていた。 キミのように、素直で、真っ直ぐで、 いつも笑っていたら、 いつか、キミのように輝けるのかな? 私にはまだその『答え』は見えない。 *** 窓から、こちらを見ている女子に気付いたのは、 もう随分前からだ。 はじめは、ただぼんやりと空でも眺めているのであろうと 気にも留めなかったのだが、 いつも、俺たちが校庭にいると、 決まって彼女はそこにいた。 そして頬杖を突いて、 時間が許す限り、こちらを見ているのだ。 他のものたちは誰も彼女に気付いておらず、 俺だけが気付いているようだった。 彼女は気付いているのであろうか? 俺が彼女に気付いていることを。 彼女は気付いているのであろうか? 俺が、密かに彼女をお慕いしていることを。 「オイ、幸村」 「政宗殿…いかがなさった?」 「お前よぉ、最近校庭で何ソワソワしてんだよ?」 「なっ!!そんな事ないで御座るよ!!」 「いーや、してるね。今日だって何だありゃ?あんなシュート今まで無かったじゃねぇか」 「うっ…それは…」 「何だ、お前ひょっとして…『 』?」 「なっ…/////!!!何を言ってっ…!?」 「Ha−n…やっぱりそうか!」 「ちっ違っ!!」 「オイテメー等ぁ!!幸村が…「わーわーわー!!何も無いで御座る!!!」 政宗殿が話しかけて来た内容は、 俺にはとても耐えられぬ内容で。 真っ赤になっている自分が不甲斐ない。 耳元でコソッと言われた言葉が頭をグルグル回って、 益々俺の顔を赤く染めた。 『窓際のKittyに惚れたか?』 きってぃーとやらが何なのかはわからぬが、 『窓際』という単語で彼女のことなんだと悟る。 そして彼女に気付いていたのは自分だけではないと知り、 残念に思っている自分がそこにいたことに驚いた。 あぁ、そうか。 どうやら俺は、 自分が思っている以上に彼女をお慕いしていて、 そして自分が思っている以上に、嫉妬深い男だったのだ。 まだ会話すらしたことの無い彼女のことを、 他の男が知っているだけで、 こんなにも嫌な気持ちになってしまうほど、 自分は嫉妬深かったのだ。 そんな事実を思い知り、 少しどころではなく、気分は下がる。 「Hey 何だどうした?おめでてぇじゃねぇかよ。幸村にも遂に春が来たってな」 「いつから…気付いてたのだ?」 「あ?お前の恋の予感って奴か?それはなー…」 「いやっ!!そうではなくて…!!」 「何だ、Kittyの事か?多分お前よりずっと後だ。気付いたのは」 「ずっと…後…」 「That light お前が試合中に何度も何度も校舎の方見るから気になってよ。 見てみたらいつも窓際に可愛らしいKittyがいるじゃねぇか。あーこりゃ恋だなって思った訳だ」 それから政宗殿は色々と話されていたが 俺の頭には届いていなくて、 ただ、やっぱり気付いていたのは自分だけだったことに、 嬉しくて、嬉しくて、しょうがなかった。 「…って、オイ幸村、聞いてんのか?」 「ぅえっ!?あっ…済まぬ…聞いて御座らんかった…」 「ったく。しょうがねーなー。じゃぁもう一回言うからよーく聞けよ?」 「うむ…」 「窓際のKittyの名前は。2年2組のクラス委員だ」 「…は…?」 「何だまた聞いてなかったのか?もう言わねぇぞ」 「いっ…いや、ちゃんと耳にいたした…しかし…本当に…」 「正真正銘本人だ。ちゃんと確認もとってある。You see?」 始めて聞く彼女の名前。 その名前は美しくて、 あぁ、似合いの名だと思った。 いつか、彼女と話ができるだろうか? いつか、彼女のこの美しい名を呼ぶ日が来るのだろうか? 出来れば、来てほしい。 近くても、遠くてもいい。 未来に想いを馳せて、 今日もキミを見つける。 *** 触れたい。 キミのそのふわっとした茶色い髪に。 触れたい。 キミのその鍛え抜かれた体に。 話したい。 キミのその心地いい声に包まれて。 伝えたい。 私のこの溢れんばかりの感情を。 でも私には、それを実行する術が無く、 ただ悶々と日々をすごすばかり。 窓の外にはキミがいるのに、 大声を出せば、 キミと会話が出来るのに。 それが出来ない私は なんて臆病者なのだろう。 「行ったぞー!!」 毎日校庭を走り回って、泥だらけになっている彼ら。 私の今までの人生の中で、 あんなに楽しそうに駆け回った日があっただろうか。 いや、多分ないだろう。 幼い頃から外ではなく、家の中で遊んでいた。 そのせいで、身体は細く白いし、 目も悪くなって眼鏡になった。 運動も苦手。 でもそれに比べて『ゆきむら』くんは 少し日に焼けて、健康そうな肌。 逞しい身体。 どこまででも見えるのではないかと思うほど、 真っ直ぐで澄んだ目。 運動は、とっても得意そうだ。 私に無いものを、全部持ってる人。 まぶしいな。 うらやましいな。 「Hey!幸村!!お前このままでいいのか!?」 「なっ!!?何を申されますか政宗殿!!」 「お前から行かねーとKittyは他の男んモンになっちまうぜ!?」 蒼いTシャツを着た男の子が『ゆきむら』くんに話しかける(大声で) 『【Kitty】って…子猫?どういう…』 無駄に勉強が出来る頭は、現れた英単語の意味をしっかりインプットしていて、 すぐに蒼い彼の繰り出す言葉を理解する。 しかし、英単語は理解できても、 肝心の彼が意味する『他の男んモン』っていう意味がわからない。 『ゆきむら』くんは朝、捨て猫でも見たのだろうか? でもそれだったら『他の人が拾ってしまう』の方が正しい気がするし…。 男性限定にするのも変だ。 何の話をしているのだろう? 「男だろ!?幸村!!」 「ちょ…竜の旦那何言って…」 「うるせーぞ猿!!俺は幸村に言ってんだ!!」 「そーだぜ政宗。何1人ででっけぇ声出してんだよ?」 「コイツがモタモタモタモタしてっからイライラすんだよ!!」 「だーかーらー!!何の事?ちゃんと俺様たちにわかるように説明しなさい!!」 「言え、伊達。一体何故叫び出したのだ?」 「それはっ…shit!お前が言わなくちゃ始まらねぇだろ!?気合入れろや!幸村!!」 「まっ…政宗殿…」 「オラ!早く行け!!」 そういいながら、『まさむね』くんは『ゆきむら』くんの背中を蹴った。 『ゆきむら』くんは蹴られて少しよろけながらも、 何とか転ばずに踏ん張り、慌てたように彼らの方を首だけ向けたが、 『まさむね』くんに何処かへ行くように又催促されていた。 「っ!…某とて男!!腹を括るでござる!!」 そう何かを決心した『ゆきむら』くんは、 まるでこれから戦いにでも行くかのように、 力強く歩き出していた。 そして校舎の前まで行くと立ち止まり、 なにやら深呼吸しているようだった。 『どうしたんだろう…?』 彼らの普段と違う行動に私は少し動揺していた。 そして、下で深呼吸している彼が、 バッ!っと勢い良く私の方に顔を向けたのだから、 私の心臓は少しどころではなく、 このまま破裂するのではないかと思うほどに高鳴り始めた。 こっちを見ているのだろうか? でも、目が合っている気がする。 あぁ。何て綺麗な顔をしているんだろう。 力強い目に、引き込まれそうになってしまう。 「きっ…貴殿は…、殿でござろうか!?」 「えっ!!?…あっ…はい」 「某は!真田幸村と申す!!幸村は、幸せに村と書きまする!!」 「幸村…くん…」 「よっ…よろしければ、そっ某と!ゆっ…ゆゆゆ友人になってはくださいませぬか!!?」 顔を真っ赤にしながらそう叫ぶ幸村くんは、 何だか可愛くて、思わず笑ってしまった。 そんな私の行動を見て、下にいる幸村くんが慌てふためいているのを 彼の困惑気味な表情でわかった。 私は笑い終え、『こちらこそ。友達になってください』と言うと、 今度はとても嬉しそうに笑って、大きく頷いた。 そんな彼の行動を見ていた彼の友人達は、 口々に叫びながら、 一斉に幸村くんを囲み、じゃれあっていた。 そんな彼らの姿を見て、私はまた笑った。 *** 身体の中にある全ての勇気と共に、 某は校舎へと一歩を踏み出していた。 ドクンッ…ドクンッ…と、 自分のものとは思えないほどの熱い鼓動を感じる。 足を進めるたびに、 『引き返してしまいたい』という、 なんとも臆病な思考が頭の中を駆け巡る。 しかしっ!俺だって男! これしきの試練を超えられないでこの先何を守ると言えるのだ! 「っ!!……スー…ハー…」 校舎の前に着き、 目を閉じて、ゆっくりと深呼吸をする。 大丈夫。大丈夫だ。 きっと、彼女なら受け入れてくれるはず。 まだ彼女のことは何も知らないが、 きっと、彼女は笑ってくれるはず。 目をカッと開け、勢いよく顔を上げる。 すると窓際では、困惑の表情をした彼女が俺を見下ろしていた。 初めてまじまじと見る彼女の顔に、 ひるみそうになるが、グッと堪え、 拳に力を入れて声を上げた。 「きっ…貴殿は…、殿でござろうか!?」 「えっ!!?…あっ…はい」 初めて声に出した彼女の名。 (声は震えてはいなかっただろうか?) 初めて聞いた、彼女の声。 (鈴の音のようなとても綺麗な声だった) それだけで、俺の心臓は壊れてしまいそうだ。 顔が赤くなってゆくのを感じるが、 彼女を見つめ、声を出し続けた。 「某は!真田幸村と申す!!幸村は、幸せに村と書きまする!!」 「幸村…くん…」 名を、呼ばれた…!! また心臓がドクンと波打つ。 たったそれだけのことなのに、 俺の心臓は大げさに表現してしまう。 「よっ…よろしければ、そっ某と!ゆっ…ゆゆゆ友人になってはくださいませぬか!!?」 後ろで政宗殿が小さく「チッ…ウブ野郎だな…!」と言ったのが聞こえたが、 俺は女子に向けて声をかけるのも、会話をするのも恥ずかしく、 この申し出が精一杯だった。 その証拠に、彼女の返事を待つこの時が、 ずっと永遠に続くのではないかと思うほど長く感じる。 背中に冷や汗が伝うのを感じ、 それこそ本当に叫びながら走って逃げられるならどれほど楽か…。 「…ぷっ…あはははっ…」 彼女は、とても可愛らしい笑顔で突然笑い出した。 俺は何か可笑しい事を言ったのだろうか? 不安と焦りと羞恥でどうしていいかわからず、 とりあえず後ろの仲間に助けを求めようとした時、 笑い終えた彼女は、とても優しく微笑んだ。 「こちらこそ。友達になってください」 その微笑みは、 まるで天使が現れたのかと錯覚させるような、 そんな衝撃を俺にもたらした。 心の底から湧きあがる幸福感に包まれ、 俺は今までの人生の中で一番の笑顔を浮かべて大きく頷いた。 その瞬間。後ろで俺の様子を静かに見守っていたはずの仲間達が 一斉にこちらへ駆けてきた。 「真田!!お前何だよ!隅に置けねぇな!!」 「いいねいいねぇ!!恋の嵐が吹き荒れてんじゃんか!」 「全然そんなそぶり見せてなかったじゃん!!何で俺様に教えてくれなかったのさ旦那!」 髪の毛をぐしゃぐしゃとかき回されたり、 胸をどつかれたりとしたが、皆各々の祝福の形だと受けた。 そんな中、ちらりと窓際へ目を向ければ、 そんな俺達を楽しそうに見ている殿がいた。 またそれが嬉しくて、その日、俺の顔には笑顔しか咲かなかった。 会話さえなかった。 交わるなんて想わなかった。 ただ見ていただけなのに、 こんなにも、こんなにも大好きで。 どうしよう、 胸の中から溢れだすこの想いを止められない。
「キミを、もっとたくさん、知りたいんだ」 まずは第一歩!「御友達からお願いします!!」
★☆あとがき☆★
幸村夢っす!! うわぁ…青春だぁ…(笑) こんなウブな高校生がいてもいいですよね!! そして無駄に長くなった…orz これじゃもう中編ですね;;; でも書いてて楽しかった!! 今後の二人もいつか書きたいと思います^^ ではでは 此処まで読んでくださってありがとうございます^^ これからも頑張りますのでよろしくお願いしますー!!
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